数酸

数学に関して書き留めておこうと思ったものを気まぐれに。

サイコロをあるパターンが出るまで投げ続ける

サイコロ振り続けるとき、目が{c_1,c_2,...,c_m}の順に連続して出るまでにサイコロを何回振るか、その回数の期待値{E}を一般的に求めよう。もっと直接的にも計算できるけれど、ここではマルチンゲールを利用してみる。

 

命題 {K=\{ k ; c_k=c_1 \}} として

{\displaystyle E=\sum_{k \in K} 6^{m-k+1} }

 

たとえば1が6回連続して出るまでに振る回数の期待値は{m=6, K=\{ 1,2,..,6 \} }なので{E=6^6+6^5+..+6=(6^7-6)/5}であり、123456と連続して出るまでの期待値は{m=6, K=\{1\}}なので{E=6^6}となる。

 

先に用語、記号の説明とあとで証明する補題を列挙し、それらを使って証明する。

 

 {E_q}を、条件の出目順が出るまでに{q}がでる回数の期待値とする。 

補題 {K=\{ k ; c_k=c_1 \}} として

{\displaystyle E_{c_1}=\sum_{k \in K} 6^{m-k} }

{ E_{c_1} }は他の{ E_i }より計算しやすいというのがポイント 

 

確率変数{X_n}をn回目の目とし、フィルトレーション{F_n}

{F_n=\sigma (X_1,X_2,..,X_n)}

と定義する。

確率変数{A_n^i}をn回目までに目iが出た回数とする。

補題 異なる{i,j}について

{M_n=A_n^i-A_n^j}{F_n}に関してマルチンゲール

 

{T}を、条件を満たした時の回数を表す確率変数とする。明らかにこれは{F_n}に関する停止時刻。

補題 {E[T] \lt \infty}

 

補題4 {\displaystyle E_1=E_2=...=E_6}

 これはちょっと不思議な感じがする。

命題の証明 補題1、補題4より

{\displaystyle E=E_1+E_2+...+E_6=6E_{c_1}= \sum_{k \in K} 6^{m-k+1} }

 

以下、各補題を証明する。

補題 {K=\{ k ; c_k=c_1 \}} として

{\displaystyle E_1=\sum_{k \in K} 6^{m-k} }

 

証明 確率変数{ L_1 }を、サイコロを振り始めて最初に{ c_1 }が出てからその「チャンス」が継続している間に出た{c_1}の目の総数とする。但し「成功」した場合は{ L_1=\#\{i; c_i=c_1 \} }とする。

例 { m=4 }, { (c_1,..,c_4)=(1211) }のとき

出目順が53124134...なら 53[12]4134 と括弧で括った中にある1の数を数えて{ L_1=1 }

21121111なら2[1]121111で{ L_1=1 }

12111213なら[1211]1213で{ L_1=3 }

次に確率変数{ L_2 }を、{ L_1 }のカウントを終えたのち、そこから改めてサイコロを振り始めたと考えるときの{ L_1 }に相当するものとする。{L_3,L_4,... }も同様。すると{ (L_1,L_2,...) }は独立同分布であり、

{\displaystyle E[ L_1 ]=\sum_{k \in K} 6^{1-k} }

{\displaystyle E_1 }

{\displaystyle =\sum_{i=1}^\infty E[ L_i ]P(i回目より前のチャンスはすべて失敗) }

{\displaystyle =E[L_1] \sum_{i=1}^\infty (1-6^{-(m-1)})^{i-1} }

{\displaystyle =\sum_{k \in K}6^{1-k} 6^{m-1}=\sum_{k \in K}6^{m-k}  }

 

補題 異なる{i,j}について

{M_n=A_n^i-A_n^j}{F_n}に関してマルチンゲール

 

証明 {M_n}{F_n}適合性、可積分性は明らか。 残りの条件は

{E[M_{n+1}-M_n|F_n] }

{ =E[A_{n+1}^i-A_n^i|F_n]-E[A_{n+1}^j-A_n^j|F_n] }

{=1/6-1/6=0}

によって分かる。□

 

補題 {E[T] \lt \infty}

 

証明  { k=1,2,... }に対して

{\displaystyle P( T \gt km ) }

{\displaystyle \lt P(km回までをm回ごとに区切ったどの区間も条件の出目順でない)  }

{\displaystyle =(1-6^m)^k  }

であるから

{\displaystyle E[ T ] =\sum_{t=0}^{\infty} P(T \gt t)  }

{\displaystyle \lt \sum_{k=0}^{\infty} m P(T \gt km)  }

{\displaystyle \lt m \sum_{k=0}^{\infty}  (1-6^{-m})^k   }

{\displaystyle =m6^m \lt \infty  } □

 

補題4 {\displaystyle E_1=E_2=...=E_6}

 

 証明

補題2の{ M_n }について、 { | M_{n+1}-M_n | \le 1 }補題3から任意抽出定理を適用できる。したがって

{\displaystyle E[ M_T ]=E [ M_0 ]=0  }

よって

{\displaystyle  E_i=E[A_T^i ]=E[A_T^j  ]=E_j  }