数酸

数学に関して書き留めておこうと思ったものを気まぐれに。

対称群の正規部分群

対称群{S_n}の非自明な正規部分群交代群{S_4}でのクラインの四元群のみであることを乏しい知識で示してみます。

用いる知識は

{G}の部分群{H}正規部分群であることは{H}{G}のいくつかの共役類の和集合として表されることと同値である。

 

対称群について{g,h}が同じ共役類に入ることは、両者が同じサイクル構造を持つことと同値である。 

 

などです。

 

以下では正規部分群とは非自明なもののみを指すとします。

 

先に4次以下について簡単にみていきます。類等式の部分和で{S_n}の位数の約数となるものが正規部分群の候補になります。

 

1,2次の対称群はそもそも非自明な部分群が存在しない。

3次の対称群の類等式は{6=1+2+3} 。1を含む部分和で6の非自明な約数になるのは{1+2} のみ。これは交代群{A_3}が対応する。

4次の対称群の類等式は

{24=1+6(互換)+8(長さ3の巡回置換)}

{+6(長さ4の巡回置換)+3(互いに素な互換の積)}

 1を含む部分和で24の非自明な約数になるのは{1+3,1+3+8}のみ。これはクラインの四元群{V}交代群{A_4}が対応する。 

 メインに進みます。

命題 {n≧5}のとき{n}次対称群{S_n}正規部分群交代群{A_n}のみ。
 
先に用語・記号の説明をします。 
 
共役類{C,C'}に対して{C \rightarrow C'}とは、
{C}を含む任意の正規部分群{C’}も含むこと
と定義する。
 
ある{ g,h \in C  }が存在して{ gh \in C' }ならば{C \rightarrow C’}

{C \rightarrow C’}かつ{C’ \rightarrow C’’}ならば{C \rightarrow C’’}

に注意してください。
 
{ S_n }の共役類が完全であるとは、その共役類の元を{\{ 1,2,..,n \}}上の 全単射とみるときに不動点を持たないことと定義する。(完全順列に倣った用語です)
 
{\{e}\} 以外の共役類を非自明な共役類と呼ぶ。
 
 
5次以上対称群{ S_n }について以下の補題1~4が成り立ちます。
 
補題 長さ3の巡回置換からなる共役類{C_3}交代群{A_n}を生成する。
 
補題 完全でない非自明な共役類{C}について、{C \rightarrow C_3}
 
補題 各元が、互いに素な互換の積では表されない非自明な共役類{C}について、{C \rightarrow C_3}
 
補題 非自明な共役類{C}について、{C \rightarrow C_3}
 
 命題の証明 正規部分群はある非自明な共役類を含む。補題1と補題4により、非自明な共役類を含む正規部分群交代群{A_n}を含む。{A_n}を含む真部分群は存在しないので正規部分群{A_n}のみ。□
 
 
補題を証明します。 
 
補題 長さ3の巡回置換からなる共役類{C_3}交代群{A_n}を生成する。
 
証明 {C_3}から生成される{S_n}の部分群を{G}とする。{C_3 \subset A_n}より{G \subset A_n}。逆の包含関係は、{A_n}の元は偶数個の互換の積で表されるので任意の二つの互換の積が{G}の元であることを示せばよい。実際、相異なる{i,j,k,l}について
{(ij)(ij)=e \in G }
{(ij)(ik)=(ikj) \in G }
{(ij)(kl)=(ikj)(ikl) \in G }
となる。□
 
 
補題 完全でない非自明な共役類{C}について、{C \rightarrow C_3}
 
証明 {C}の元{s}が互いに素な巡回置換の積として{s=s_1 s_2 s_3 ... s_k}と表されていたとする。{s}不動点の一つを{m}とする。

{s_1=(i_1,i_2,...,i_j)}のとき

{u=(m,i_j,i_{j-1},...,i_2)}

{ t=u s_2^{-1}...s_k^{-1}} とすれば

{t \in C}であり

{st=s_1 u=(i_1 i_2 m) \in C_3} となる。□

 
 
補題 各元が、互いに素な互換の積では表されない非自明な共役類{C}について、{C \rightarrow C_3}
 
証明 補題2より、完全な共役類に限って示せばよい。
まず巡回置換からなる共役類{C_n}については
{(1234...n)(12n...43)=(132)}から分かる。
 
そうでない共役類の元{s \in C}は、少なくとも一つは互換ではない互いに素な巡回置換によって{s=s_1 s_2 s_3 ... s_k} (k≧2)と表される。{s_1}は互換でないとする。
{ t=s_1 s_2^{-1}...s_k^{-1}}とすれば{t \in C}であり
{st=s_1^2} となる。これは完全でない非自明な共役類の元なので補題2から示される。□
 
 
補題 非自明な共役類{C}について、{C \rightarrow C_3}
 
証明 補題2、補題3より完全かつその元が互いに素な互換の積で表される共役類に限って示せばよい。{n≧5}より3つ以上の互換の積となる。
{[(12)(34)(56)s_1...s_k][(23)(45)(61)s_1...s_k]}
{=(135)(246)}
これと補題3より示される。□